ペットボトルのふたが開かない。
瓶のふたが固くて回らない。
缶のプルトップに指が入らない。
こうしたことが増えてくると、
「握力が落ちたのかな」
と思う人もいるでしょう。
このサイトでも以前、ペットボトルを開けるために必要な握力や、握力が弱くなると日常生活のどんな場面で困るのかを取り上げました。
でも今回は、少し違う方向から考えてみます。
握る力が弱いなら、そもそも強く握らなくてもいい方法はないのでしょうか。
海外の生活用品や自助具を調べてみると、この発想で作られた面白い道具がいくつもありました。
作業療法士の立場から見ても、「なるほど、その仕事を手にさせないのか」と思う物があります。
まず、ふたが開かない理由は一つではありません
瓶のふたを開ける場面を思い浮かべてください。
右手でふたを握る。
左手で瓶を押さえる。
ふたが滑らないように力を入れる。
そして、ふたと瓶を反対方向へ回します。
普段は一瞬でやっていることですが、実はいくつもの動作が必要です。
だから「瓶が開かない=握力が弱い」とは限りません。
ふたを握る力が弱い人もいます。
指が滑ってしまう人もいます。
手首をひねると痛い人もいます。
片麻痺などで、瓶を押さえる側の手が十分に使えない人もいます。
ここを分けて考えると、必要な道具も変わってきます。
1.滑るなら、まず滑らなくする
一番簡単なのがこれです。
握る力そのものを強くするのではなく、手とふたの間を滑りにくくする。
海外では「Dycem(ダイセム)」という滑り止め素材を使った瓶オープナーなどが販売されています。
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柔らかい素材をふたにかぶせて握ることで、手が滑りにくくなります。
メーカーも、関節炎がある人、握力が弱い人、手の感覚が低下している人、上肢の力が弱い人などの使用を想定しています。
ここで大切なのは、
「もっと強く握る」のではなく、「今の力が逃げないようにする」
という考え方です。
握力そのものが極端に弱くなくても、ふたの表面で指が滑って力を伝えられない人なら、これだけで変わる可能性があります。
日本でもシリコンシートやゴム製オープナーなど、同じ考え方の製品は手に入ります。
2.片手しか使えないなら、瓶を「手で押さえない」
ここからが面白いところです。
イギリスには「Derby Spill Not」という道具があります。
見た目だけでは、何に使う物なのか少し分かりにくいかもしれません。
台に大きさの違う穴があり、そこへ瓶やボトルを入れます。
穴の内側には滑りにくい素材が使われていて、瓶そのものを台が押さえてくれる仕組みです。
対応する容器の直径は約2.5~10cm。握力が弱い人だけでなく、片手しか十分に使えない人の使用も想定されています。作業台に固定して使うこともできます。
これを初めて見る人には、少し不思議な道具に見えると思います。
でも考え方は単純です。
瓶を開けるには、
ふたを回す手+瓶を押さえる手
が必要です。
だったら、
瓶を押さえる仕事を、台にやってもらえばいい。
片麻痺などで片手が使いにくい場合、「もう一方の手をもっと使えるようにしましょう」だけが解決策ではありません。
環境に、もう一方の手の役割を持たせる方法もあります。
3.さらに進むと「家そのもの」がオープナーになる
海外には、戸棚の下などへ固定して使うオープナーもあります。
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戸棚の下面などにオープナーを取り付けておき、そこへふたを差し込みます。
毎回オープナーを引き出しから出して、手で持って、ふたに取り付ける必要がありません。
これは握力だけの問題ではありません。
道具そのものを握りにくい。
道具を取り付ける細かい操作が難しい。
片手しか使えない。
そんな人なら、
「便利な道具を使うために、また手を使わなければならない」
ということが起こります。
だったら最初から道具を家に固定しておく。
私はこの発想がとても面白いと思います。
自助具というと、本人が手に持って使う物を想像しがちです。
でも、本人が道具を持つ必要はありません。
家具や住宅そのものに、人の動作を助ける役割を持たせてもいいのです。
4.それでも難しいなら、人が回さなくてもいい
さらに人の仕事を減らしたものが、電動式の瓶オープナーです。
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瓶の上に機械を置き、ボタンを押す。
機械が瓶とふたをつかみ、モーターでふたを回します。
ここまで来ると、
「どうすれば弱い握力でふたを回せるか」
ではありません。
「ふたを回す仕事そのものを、人がしない」
という解決方法になります。
もちろん、何でも電動にすればいいわけではありません。
機械を瓶の上に置けるか。
ボタンを操作できるか。
機械を保管場所から出せるか。
電池交換ができるか。
こうした別の動作も必要になります。
便利グッズは「高齢者向け」と書いてあるから使いやすいのではなく、その人がどの動作までできるのかを考えて選ぶ必要があります。
海外の道具を並べると、4つの方法が見えてきます
ここまでの道具は、実は同じことをしているわけではありません。
| 困っていること | 道具・環境がすること |
|---|---|
| ふたが滑る | 摩擦を増やす |
| 瓶を押さえられない | 瓶を固定する |
| 道具を持って操作しにくい | 道具そのものを固定する |
| 回す力が足りない | モーターに回してもらう |
こうして見ると、面白いことに気づきます。
段階が進むほど、人間に求める仕事が減っています。
最初は「今ある握力を使いやすくする」。
次は「片方の手の仕事を環境に任せる」。
最後は「回す仕事まで機械に任せる」。
だから、握力が弱くなった人に対して、
「このオープナーがおすすめです」
だけでは、本当は足りません。
どの動作ができなくなったのかによって、必要な助け方が違うからです。
「握力を鍛える」ことと「道具を使う」ことは敵ではありません
ここも誤解してほしくないところです。
握力が低下したからといって、すべての動作を機械に任せればいいわけではありません。
身体機能を維持したり、必要に応じてリハビリテーションを行ったりすることも大切です。
一方で、身体が変わるまで生活を止めておくことはできません。
今日、水を飲みたい。
今日、料理をしたい。
今日、薬を飲みたい。
そのために道具を使っていい。
身体を整えることと、今の身体で暮らせる環境を作ることは、同時に考えていいのです。
私が海外の道具を見て面白いと思ったこと
今回いろいろな製品を見て、珍しい商品そのものよりも、その考え方に興味を持ちました。
握力が弱い。
だから握りやすい道具を作る。
そこで終わらず、
握らなくてもいい。
押さえなくてもいい。
回さなくてもいい。
というところまで考えられている。
これは瓶のふただけの話ではありません。
ドアノブ。
蛇口。
調理器具。
鍵。
ファスナー。
包装。
家具。
住宅設備。
生活の中には「人間がこの動作をできること」を前提に作られている物がたくさんあります。
身体が変わったとき、
「できなくなった」
で終わらせるのではなく、
その動作、本当に人がやらなければならないのだろうか。
と考えてみる。
作業療法士として生活を見るとき、私はこの視点を大切にしたいと思っています。
そして、市販品で合う物がなければ、形を変えたり、自助具を作ったりする方法もあります。
人を道具に合わせるのではなく、道具を人に合わせる。
海外の少し変わった便利グッズは、そのことを分かりやすく見せてくれます。
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