高齢者はなぜエアコンを使わない?「暑さを我慢するから」だけではない家電と住環境の問題

暮らしの使いにくさ

夏になると、毎年のように聞く言葉があります。

「高齢者は暑くてもエアコンを使わない」

そして対策として、

「我慢せずエアコンを使いましょう」
「適切に冷房を使用しましょう」

と呼びかけられます。

もちろん、それは正しいことです。

環境省も、高齢者は熱中症になりやすいため、周囲の人が「屋内でエアコン等を適切に使用し、涼しい環境で過ごせているか」を確認するよう呼びかけています。

でも、私はここで一つ疑問があります。

「エアコンを使いましょう」と言えば、本当に使えるのでしょうか。

エアコンを使わない理由を、「暑さを我慢する高齢者だから」で終わらせると、別の問題を見落とすかもしれません。


エアコンは、いつの間にかかなり複雑な家電になった

昔のエアコンなら、

電源を入れる。
温度を決める。
風量を変える。

このくらいだったかもしれません。

今のエアコンには、冷房、暖房、除湿、自動運転、風向、風量、タイマー、内部清掃、省エネ運転など、多くの機能があります。

便利になったことは間違いありません。

しかし、

機能が増えたことと、使いやすくなったことは同じではありません。

実際、高齢者向け家電の研究では以前から、多機能化に伴うリモコンの複雑化や多ボタン化が高齢者の操作上の障壁になることが指摘されています。

これは「高齢者が機械に弱い」という話ではありません。

人間に対して、製品側がどれだけの操作を要求しているか。

という問題です。


「冷房を28℃にする」までに、何をしなければならないか

例えば、

「部屋が暑いので、冷房を28℃にしてください」

という動作を考えてみます。

まずリモコンを探す。

上下を確認する。

電源ボタンを見つける。

冷房になっているか表示を見る。

暖房や除湿なら運転モードを変更する。

設定温度を見る。

温度を変更する。

エアコンが実際に作動したか確認する。

考えてみれば、結構な作業です。

視力が低下して小さな文字が見えにくくなった人ならどうでしょう。

指先が動かしにくく、小さなボタンを押し分けにくい人なら。

「冷房」「除湿」「自動」の意味がよく分からない人なら。

操作したあとに現在の状態を確認することが難しい人なら。

「エアコンが家にある」ことと、「自分で適切に使える」ことの間には距離があります。


実際に「エアコンのリモコン操作」を調べた研究がある

面白い研究があります。

アルツハイマー型認知症患者と健常高齢者を対象に、5種類のエアコンリモコンの操作能力を比較した研究です。

研究では、リモコンによって操作時間に差が認められ、操作時間と認知機能・視覚認知機能との関連も検討されています。

つまり、

「エアコンを操作できるか」は本人の能力だけではなく、どんなリモコンを渡すかによっても変わり得る。

ここが重要です。

同じ人なのに、製品が変わるとできたり、できなかったりする。

これは家電だけの話ではありません。

私たちが福祉住環境を考えるときにも、非常によく起こることです。


ボタンかダイヤルか、だけでもない

では、大きなボタンにすれば解決するのでしょうか。

これも、それほど単純ではありません。

後期高齢者を対象に、エアコンの温度・風量設定についてダイヤルとボタンの使いやすさを比較した研究では、単純な操作では両者に明確な違いが認められませんでした。

研究者は、インターフェースの形だけでなく、操作そのものの複雑さが使いやすさに影響する可能性を指摘しています。

これ、かなり大事な話です。

「ボタンを大きくしました」

「文字を大きくしました」

だけでは、本当の使いやすさにならない場合がある。

例えば、

冷房を使いたい人に、本当に10個も20個もボタンが必要なのか。

というところから考えてもいいはずです。


「使えない」のではなく、「要求されることが多すぎる」

家電が使いにくいと、

「最近、機械が分からなくなった」

と言われることがあります。

でも見方を変えてみます。

昔ならスイッチ一つだったものに、

液晶画面を読む。

現在のモードを理解する。

複数の選択肢から選ぶ。

設定値を確認する。

操作結果を確認する。

という作業が必要になった。

だとすれば、

人間の能力が落ちただけではなく、家電が人間に要求する能力が増えた

とも言えます。

ユニバーサルデザインの考え方でも、人間の特性と製品・環境との間に生じる「不適合」を減らすことが重要になります。

これは、これからの福祉住環境を考えるうえで面白い視点だと思います。


「エアコンを使わない理由」は操作だけでもない

もちろん、リモコンだけが原因ではありません。

費用の問題もあります。

50代以上358人を対象にした調査では、エアコン購入時に重視する項目として「電気代」を挙げた人が54.1%いました。

電気料金が気になれば、

「まだ我慢できる」

「夕方になったらつけよう」

「一人なのにもったいない」

と考えることもあるでしょう。

さらに、

冷風が身体に当たるのが嫌。

昔からエアコンをあまり使わない。

窓を開ければ十分だと思っている。

掃除ができない。

フィルターまで手が届かない。

リモコンをなくす。

電池が切れている。

故障している。

さまざまな事情が考えられます。

だから、

「高齢者はエアコンを使いたがらない」

と一括りにすること自体が危ないのです。


問題は「所有率」ではなく「使える状態か」

熱中症対策で、

「エアコンを設置しましょう」

というところまでは分かりやすい。

でも福祉住環境としては、もう一歩先まで見たい。

そのエアコンは、

本人が電源を入れられるか。

冷房になっていることを確認できるか。

設定温度を変更できるか。

リモコンの表示を読めるか。

故障や電池切れに気付けるか。

フィルターを清掃できるか、誰かに頼めるか。

電気代への不安から使用を控えていないか。

ここまで確認して、初めて「使えるエアコン」になります。


家族が確認するなら「エアコンつけてる?」だけでは足りない

離れて暮らす親に電話して、

「暑いからエアコンつけてね」

と言う。

これも大切です。

でも、一度実家へ行ったときに、

実際に本人にリモコンを渡して操作してもらう

のもいいと思います。

「冷房をつけてみて」

「27℃にしてみて」

「消してみて」

これだけでも、かなり分かります。

迷わずできるのか。

表示を顔に近づけて見ていないか。

違うボタンを何度も押していないか。

操作したあと、本当に冷房になっているか確認できているか。

これはテストではありません。

家電とその人が合っているかを見るためです。


必要なら「機能を減らす」という発想もある

家電は長い間、

機能を増やすこと=進化

という方向に進んできました。

しかし、使う人によっては逆もあり得ます。

必要なのが、

「つける」
「消す」
「温度を上げる」
「温度を下げる」

だけなら、それが迷わずできることの方が重要かもしれません。

実際、少ないボタンで複数の家電を操作する「高齢者に優しい家電操作システム」は、20年以上前から研究されています。

最新機能を全部使えることが「使いやすさ」ではありません。

その人が必要とする機能を、その人が確実に使えること。

こちらの方が生活では重要です。


「高齢者がエアコンを使わない」で終わらせない

環境省が高齢者本人だけでなく、周囲の人にまで「エアコン等を適切に使用しているか確認してください」と呼びかけているのには理由があります。高齢者は熱中症リスクが高く、室内でも注意が必要だからです。

だからこそ、

「暑いのにエアコンをつけない」

という行動を見たときに、

「頑固だから」
「暑さが分からないから」
「昔の人だから」

だけで片付けない方がいい。

操作できるのか。

表示は見えるのか。

何を押せばいいか分かるのか。

費用を心配しているのか。

風が不快なのか。

掃除や維持管理が難しいのか。

理由によって解決方法は全く違います。


住宅だけではなく「家電」も住環境の一部

福祉住環境というと、

段差、手すり、廊下幅、浴室、トイレ。

どうしても建物そのものに目が向きます。

でも実際の生活では、

エアコン、洗濯機、電子レンジ、冷蔵庫、テレビ、インターホン、掃除機などを毎日使っています。

家電が使えなくなることも、生活環境が本人に合わなくなることの一つです。

だから私は、

「高齢者でも使える家電を選びましょう」

だけではなく、

そもそも、その家電は人間に何を要求しているのか。

というところまで考えてみたいと思います。

人が製品に合わせ続けるのではなく、製品の側が人に合わせる。

エアコンのリモコン一つにも、福祉住環境や人間工学につながる問題が隠れています。

そしてこの視点で家の中を見直すと、エアコンだけでは終わりません。

「便利になったはずなのに、なぜ使いにくいのか」

考えるべき家電は、まだたくさんありそうです。

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