障がい者は避難所で何に困る?「避難できたら終わり」ではない7つの問題

暮らしの使いにくさ

災害が起きたとき、まず考えるのは「どうやって避難するか」です。

自宅から避難所まで歩けるのか。車いすで移動できるのか。家族や支援者が迎えに来られるのか。

もちろん、命を守るためには非常に重要です。

しかし、障がいのある人の避難を考えるとき、もう一つ見落とせない問題があります。

避難所に着いたあと、そこで生活できるのか。

避難所は病院でも福祉施設でもありません。

普段とは違う場所で、大勢の人と一緒に、限られた設備や物資を使って生活することになります。

内閣府も、避難生活における良好な生活環境の確保について指針を設け、トイレや要配慮者への対応などを課題として位置付けています。厚生労働省も、避難所で生活する障害児・者について、障害特性に応じた配慮が必要だとしています。

では実際に、何が問題になるのでしょうか。

1.床に座ること自体が難しい人がいる

体育館などの避難所を想像すると、床に毛布やマットを敷いて過ごす姿を思い浮かべる人が多いと思います。

しかし、

床に座れることと、床から立ち上がれることは別です。

片麻痺がある人、下肢筋力が低下している人、関節に痛みがある人、バランス能力が低下している人などでは、床からの立ち上がりが難しくなることがあります。

ベッドでは自立していた人でも、床では介助が必要になる可能性があります。

これは単に「寝心地が悪い」という問題ではありません。

トイレに行くたびに誰かの介助が必要になれば、その人の避難所生活そのものが大きく変わります。

避難所の床面で生活できる身体機能があるか。

これは避難所を考えるうえで重要な視点です。

2.トイレまで行けても、使えるとは限らない

避難所生活で特に大きな問題になるのがトイレです。

内閣府は「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」を設け、2024年12月にも改定しています。

障がいのある人の場合、「トイレがある」というだけでは十分ではありません。

車いすが入れるか。

便座まで移乗できるか。

手すりがあるか。

杖を安全に置けるか。

夜間でもトイレまで移動できるか。

介助者が一緒に入れるスペースがあるか。

こうした条件によって、同じトイレでも「使える人」と「使えない人」が生まれます。

厚生労働省も、障がい者や高齢者について、車いすや障害者用携帯便器など生活に必要な物資のニーズ把握と確保を求めています。

普段、自宅の手すりや洋式便座を使って一人で排泄できている人が、環境が変わったことで介助を必要とする。

これは十分起こり得ます。

つまり、

障害そのものが重くなったわけではないのに、環境が変わったことで「できないこと」が増える。

福祉住環境を考えるうえで、非常に重要なところです。

3.「物資をもらった=使える」でもない

避難所では水や食料などが配られます。

しかし、ここにも生活動作の問題があります。

たとえばペットボトル。

握力が弱い人、手指に痛みがある人、片手しか十分に使えない人では、キャップを開けること自体が難しい場合があります。

食品の袋を開ける、缶のプルタブを起こす、包装を破る。

こうした動作も同じです。

一見すると小さな問題ですが、

水を受け取ったのに、自分では開けられない。

となれば、それは避難生活では大きな問題です。

必要なのは「握力が何kgあるか」だけではありません。

つまむ力、指先の動き、両手を協調して使えるか、痛みはないか。

そして、道具を使えばできるのか。

身体機能と環境の両方を見る必要があります。

4.「情報がある」と「情報を受け取れる」は違う

避難所ではさまざまな情報が流れます。

「何時から食料を配ります」

「給水車が来ます」

「この場所は使用できません」

「別の避難所へ移動します」

ところが、その情報が館内放送だけだったらどうでしょう。

聴覚障害のある人には伝わらない可能性があります。

反対に掲示だけで伝えれば、視覚障害のある人には情報が届きにくくなります。

厚生労働省も、掲示板だけではなく、広報、文字情報、手話など複数の手段による情報提供や、必要に応じた手話通訳者などの確保を挙げています。

情報を出したかではなく、本人に届いたか。

避難所では、この違いが非常に大きくなります。

5.静かな場所が必要な人もいる

避難所は、多くの人が同じ空間で生活します。

話し声、子どもの声、足音、照明、館内放送、人の出入り。

普段とは全く違う環境です。

発達障害のある人の中には、音や光などの刺激に強い苦痛を感じる人がいます。

また、知的障害のある人にとっては、突然生活環境や予定が変わることそのものが大きな負担になる場合があります。

精神障害のある人でも、人の多さや睡眠環境の変化などによって普段の生活を維持することが難しくなることがあります。

厚生労働省も、能登半島地震への対応を含め、発達障害や視聴覚障害など障害特性に応じた避難所での支援情報を公開しています。

だから、

全員を同じ場所に集めることが、必ずしも平等な支援とは限りません。

パーティションや別室など、刺激を減らせる環境を確保できるかも重要になります。

6.外から見えない障害ほど気付かれにくい

車いすや白杖などは、周囲から比較的分かりやすいものです。

一方、

内部障害、発達障害、精神障害、難病などは、外見だけでは分からないことがあります。

薬を飲む必要がある。

頻繁にトイレへ行く必要がある。

長時間立っていられない。

疲れやすい。

特定の食事への配慮が必要になる。

ところが避難所では、一人ひとりの事情を運営側が最初から把握しているわけではありません。

厚生労働省も、避難所などで障がい者や高齢者のニーズを把握するための相談体制を整えることを求めています。

本人が「困っています」と言えるとも限りません。

見た目では分からない困難をどう拾うか。

設備だけでは解決できない、避難所運営上の課題です。

7.「福祉避難所があるから大丈夫」とも言えない

ここは誤解されやすいところです。

福祉避難所は、高齢者や障がい者など、一般の避難所での生活に特別な配慮を必要とする人のための仕組みです。

ただし、

「障がい者なら災害時に好きな福祉避難所へ直接行けばいい」という単純な仕組みではありません。

2021年の制度改正を受け、指定福祉避難所については、施設ごとに受入対象者をあらかじめ特定し、対象者とその家族などが直接避難できる仕組みを進める方向になりました。背景には、障がいのある人などが一般避難所で過ごすことの難しさもあります。

逆にいえば、誰がどの福祉避難所へ避難できるのかは、地域や施設、事前の調整によって違います。

だから平時に、

「自分は福祉避難所の対象なのか」
「どこへ避難することになっているのか」
「直接避難できるのか」

を自治体に確認しておく意味があります。

障がい者の避難を「移動」だけで考えない

防災では、

自宅

避難経路

避難所

という「移動」に目が向きやすくなります。

しかし、本当に考えなければならないのは、その先です。

避難所に到着してから、数時間、数日、場合によってはそれ以上をどう生活するのか。

食べる。

飲む。

排泄する。

寝る。

起きる。

移動する。

薬を飲む。

情報を得る。

人に助けを求める。

一つひとつは普段なら当たり前に行っている生活動作です。

ところが環境が大きく変われば、それまで自立していた人でも難しくなることがあります。

これは障がい者だけに限った話ではありません。

高齢者、けがをした人、妊婦、乳幼児を連れた人などにも共通する部分があります。

避難所を確認するときに見ておきたいこと

自宅近くの避難所がどこにあるかを確認するだけではなく、可能なら次の点まで見ておきたいところです。

入口に段差はないか。トイレは使えそうか。床から立ち上がれない場合はどうするか。電源を必要とする機器がある場合はどうするか。服薬を継続できる準備があるか。普段使っている補助具を持ち出せるか。そして一般避難所で生活できない場合、どこへ相談するのか。

特に障がいのある人や家族は、災害が起きてから初めて考えるのではなく、自分の地域の避難所と福祉避難所について自治体に確認しておくことを勧めます。

内閣府も、避難所の生活環境だけでなく、福祉避難所、トイレ、在宅・車中泊避難者への支援まで、それぞれガイドラインを設けています。

「その人ができない」のではなく、環境によってできなくなる

作業療法士として避難所を考えると、私はここが非常に重要だと思います。

自宅では一人でトイレへ行ける。

ベッドなら一人で起きられる。

いつもの道具なら食事ができる。

静かな環境なら落ち着いて生活できる。

文字なら情報を理解できる。

それが避難所ではできなくなる。

本人の身体機能や障害が急に変化したわけではありません。

環境が変わったことで、それまで「できていたこと」が「できないこと」に変わった。

だから防災を考えるとき、単に避難所の数を増やせばいいわけでも、障がい者だけを別の場所へ移せばいいわけでもありません。

人に環境を合わせる。

その視点が必要です。

避難所にたどり着けるか。

そして、

たどり着いた場所で生活できるか。

この二つをセットで考えて、初めて障がいのある人の避難を考えたことになるのではないでしょうか。

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講演・研修のご相談について

福祉住環境研究所では、作業療法士としての視点と福祉事業所での実践経験をもとに、高齢者・障がい者の生活動作と住環境について情報発信しています。

災害時の避難についても、「避難所まで行けるか」だけではなく、避難先でその人が実際に生活できるのかという視点が必要です。

自治体、医療・介護・福祉関係者、地域団体などを対象とした、防災・福祉住環境・生活動作に関する講演や研修についてもご相談を受け付けています。

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