食品の袋が開けられない。
薬の袋が開けられない。
お菓子の包装を両手で引っ張っても開かない。
こうした困りごとは、「握力が弱くなったから」で説明されることがあります。
以前、このサイトでも、握力が弱くなるとペットボトルのふたやドアノブなど、日常生活のさまざまな動作が難しくなることを書きました。
ただ、原因が分かっても生活は変わりません。
開けられない人が知りたいのは、「では、どうやって開けるのか」です。
今回はそこまで考えてみます。
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袋を開けられない原因は「握力」だけではない
袋を開ける動作をよく見ると、単純に力任せに引っ張っているわけではありません。
袋の端を指先でつまむ。
滑らないように保持する。
左右の手を反対方向へ動かす。
裂け始めたところで力を調節する。
これを両手で同時に行っています。
そのため、握力が低下した人だけでなく、指先で薄いものをつまみにくい人、関節に痛みがある人、手が震える人、脳卒中などによって片手が使いにくい人でも、袋を開けることが難しくなります。
ここを一緒にしてはいけません。
「何ができないために袋が開かないのか」によって、必要な解決策が違うからです。
滑って力が逃げるなら、まず摩擦を増やす
袋をつまむことはできる。
両手も使える。
けれど、引っ張ろうとすると指が滑る。
この場合は比較的単純です。
本人がもっと強い力を出すのではなく、今ある力が逃げないようにします。
シリコーンなどの滑りにくい素材を間に入れることで、袋を保持しやすくなる場合があります。
この方法は袋だけでなく、瓶や容器を押さえるときにも使えます。
ここで大切なのは、「握力を補う道具」と考えないことです。
本人の握力そのものは変わっていません。
摩擦を増やすことで、必要だった握力を減らしているわけです。
家庭で使うなら、専用品でなくても構いません。ただ、キッチンで繰り返し使うのであれば、洗えるシリコーンシートを一枚置いておく方法があります。
パール金属 TOUCH st シリコーンシート BLACK CC-1536これで開けられるなら、それ以上大げさな道具を使う必要はありません。
問題は、これでも開けられない場合です。
指先でつまめないなら、「引き裂く」ことをやめる
握力がかなり低下していたり、指先の細かな操作が難しくなっていたりすると、滑り止めだけでは解決できません。
薄い袋の端そのものを保持できないからです。
この場合、
「どうすれば袋を強くつまめるか」
と考え続けるより、
「つまんで引き裂くという動作をしなくても開けられないか」
と考えたほうが現実的です。
そこで選択肢になるのが、袋を刃に通して開封するタイプのオープナーです。
普通に袋を開ける場合には、
「つまむ」
「保持する」
「左右に引っ張る」
という能力が必要です。
オープナーを使えば、それを
「袋を道具に通して動かす」
という別の動作に置き換えることができます。
便利グッズを使っているというより、必要とされる身体機能そのものを変えていると考えたほうが分かりやすいでしょう。
ただし、ここにも落とし穴があります。
小さなオープナーを指先でつまんで保持しなければならない製品では、指先の力が弱い人には使いにくい可能性があります。
「袋オープナー」と書いてあれば誰にでも使いやすいわけではありません。
道具を使うために、どんな動作が必要なのか。
ここまで見て選ぶ必要があります。
片手しか使えないと、「ハサミで切る」では解決しない
ここから条件が大きく変わります。
脳卒中による片麻痺などで、実用的に使える手が片方だけの場合です。
「袋が開かないならハサミで切ればいい」
一見もっともらしい方法ですが、実際にやろうとすると問題が起こります。
使える手でハサミを持ったら、
袋は誰が持つのでしょうか。
ここに片手動作の難しさがあります。
解決方法の一つが、
道具を持つのではなく、道具を固定してしまうことです。
昭和大学薬学部では、脳卒中片麻痺者が薬の分包紙を片手で開ける方法として、市販のレターオープナーを利用する方法を紹介しています。
レターオープナーの下に滑り止めゴムを敷いて動かないようにし、使える側の手で分包紙を溝へ通して開封します。
発想を逆転させています。
片手で袋と刃物を操作するのではありません。
刃物の役割を環境側へ固定して、
人は袋だけを動かす。
これなら反対の手を使わずに済みます。
もちろん、昭和大学が紹介しているのは薬の分包紙についての方法です。食品包装には厚さや材質の違いがあるため、すべての袋にそのまま使えるとは限りません。
それでも、「片手でどう頑張ってハサミを使うか」ではなく、もう一方の手がしていた仕事を環境に任せるという考え方は、食品の開封にも応用できます。
「もう一方の手」を道具にやってもらう
片手で生活すると、袋を開けること以外にも同じ問題が起こります。
野菜を切ろうとしても、包丁を持てば野菜を押さえられない。
瓶を開けようとしても、ふたを回せば瓶を押さえられない。
ボウルを混ぜようとしても、ボウルそのものが動いてしまう。
このとき不足しているのは、必ずしも握力ではありません。
固定する手です。
だから片手用の調理台やまな板には、食材を固定するためのピンや、容器を動かないようにする仕組みがあります。
片麻痺者のための包丁・まな板についても研究・開発が行われており、「片手でどう器用にやるか」ではなく、食材を固定する仕組みそのものが検討されています。
これは住環境を考えるときにも重要な発想です。
失われた身体機能を、環境の機能として置き換える。
片手で袋を開ける場合なら、
「もう一方の手が袋を押さえる」
という役割を、
滑り止め
固定具
クランプ
固定されたオープナー
などに任せることになります。
ここまでやって初めて、「片手でも使える道具」になります。
指に力を入れられないなら、身体の別の力を使う方法もある
さらに面白い研究があります。
2025年に発表された研究では、片麻痺者が缶のプルタブを片手で開けるため、紐とJ字型フックを使った自助具が検討されています。
フックをプルタブに掛け、指だけで引き上げるのではなく、身体を後方へ動かす力を利用して開ける仕組みです。
研究に参加した片麻痺者28人全員が、この自助具を使って缶を開けることができました。
さらに2026年には、同じ考え方を使って、プルヒンジキャップの中栓を片手で開ける自助具についても報告されています。
こちらも紐とJ字型フックを使った簡単な構造で、対象となった片麻痺者30人全員が自助具を使って開栓でき、使用しない場合より開けやすく、時間も短縮しました。
これはかなり示唆的です。
指の力が弱いなら、
指を強くすることだけが答えではありません。
腕を使う。
体幹を使う。
道具を固定する。
摩擦を利用する。
てこの原理を使う。
動作そのものを変える。
人間には、まだ使える能力があります。
関節が痛い人は「できるか」だけで判断しない
もう一つ、握力低下と分けて考えたいのが関節痛です。
痛みがあっても、頑張れば袋を開けられる人はいます。
だから周囲から見ると、
「開けられるじゃない」
となります。
しかし、毎日何度も強くつまんだり、ひねったりする動作が負担になるなら、それを「できる動作」として扱ってよいのかは別問題です。
昭和大学でも、関節リウマチ患者の服薬動作について、単に市販の自助具を紹介するのではなく、実際に使いにくい器具があることを指摘し、片手でも使いやすいよう固定や滑り止めを備えた器具を開発しています。
道具を見るときには、
できるか、できないか
だけではなく、
その方法を毎日続けても負担にならないか
まで考える必要があります。
市販品が合わなければ「その人に合わせて作る」という方法もある
ここまで市販品や自助具を見てきましたが、それでも解決できない人はいます。
手の大きさも違う。
動く指も違う。
関節の動く範囲も違う。
麻痺の程度も違う。
市販品が、すべての人の身体にぴったり合うはずはありません。
そこで自助具では昔から、
その人の動作に合わせて道具を加工する
ということが行われてきました。
そして今は、3Dプリンターという方法もあります。
例えば、
あと少し太ければ握れる。
この位置に指を掛けられれば引ける。
手首をひねらずに使える角度にしたい。
机に固定できるようにしたい。
こうした細かな違いなら、製品そのものを身体に合わせて作ることもできます。
実際、2026年の片麻痺者向け中栓オープナーの研究でも、高価な機械ではなく、紐とJ字型フックという身近な材料から自助具が作られています。
大切なのは3Dプリンターを使うことではありません。
人が道具に合わせるのではなく、道具を人に合わせることです。
それでも道具だけでは解決できないことがある
ここも忘れてはいけません。
「この商品なら片手で使えます」
と書かれていても、全員が使えるとは限りません。
昭和大学が紹介しているレターオープナーでも、高次脳機能障害などによって分包紙を溝へうまく入れられない場合があり、最初は使い方の説明や確認が必要とされています。
実際の生活では、
握力
指先の操作
感覚
視力
注意
認知機能
姿勢
痛み
震え
などが組み合わさっています。
だから本当に見るべきなのは、
「この人は握力が何kgだから、この商品」
ではありません。
袋を開けようとしたとき、どの動作で止まっているのか。
そこを見ることです。
袋が開けられないときのチェックリスト
袋が開けにくくなったら、次の順番で確認してみてください。
- 両手は実用的に使えるか
- 袋の端を指先でつまめるか
- つまめても滑っていないか
- 保持したまま左右へ力を加えられるか
- 指や関節に痛みが出ていないか
- 片手の場合、反対の手がしていた「固定」を何かで代替できないか
- 「引き裂く」以外の動作へ変更できないか
- 小さなオープナー自体を持って操作できるか
- 市販品の形が本人の手に合っているか
- 合わなければ固定方法や自助具を個別に作れないか
このチェックで見たいのは、商品名ではありません。
どこを道具や環境に任せれば、その人がもう一度できるようになるのか。
そこです。
「できない」を身体だけの問題にしない
袋一つ開けるだけの話です。
けれど、住環境を考えるうえでは非常に分かりやすい例でもあります。
握力が落ちた。
片手が使えなくなった。
指が痛くなった。
そのとき、
「身体が悪くなったからできない」
で終わらせる必要はありません。
摩擦を変える。
固定する。
動作を変える。
身体の別の部分を使う。
道具の形を変える。
必要なら、その人に合う道具を作る。
身体機能が変わっても、環境との組み合わせを変えることで、もう一度できることがあります。
これが、作業療法士が住環境を見るときの大事な視点の一つです。
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今回の記事の入口になったのが、**「握力が弱いとできないこと|日常生活で困る場面」**です。握力が低下したとき、家の中でどんな動作が難しくなるのかを整理しています。
また、身体機能だけでなく環境との組み合わせから生活を考える記事として、「住環境はリハビリになるのか」、**「住まいを整えるときに最初に考えること」**もあわせて読んでいただければと思います。
講座・研修のご相談
福祉住環境研究所では、作業療法士としての現場経験をもとに、身体機能だけではなく、住宅・福祉用具・生活動作・地域環境まで含めた「暮らしやすさ」を考えています。
高齢者や障害のある方の住環境、生活動作、福祉用具などをテーマとした講座・研修についてもご相談ください。

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