住環境はリハビリになるのか

リフォーム・改修

「できる」を育てる家、「できる」を奪う家

住宅改修というと、多くの人は「安全に暮らすための工事」を思い浮かべるかもしれません。

手すりを付ける。

段差をなくす。

滑りにくい床にする。

もちろん、これらは大切です。

しかし私は作業療法士として20年以上、生活の現場に関わる中で、一つの疑問を持ち続けてきました。

住環境は、本当に安全だけを目指せばよいのでしょうか。

私は、その答えは「いいえ」だと考えています。

住環境には、人の「できる」を育てる力もあれば、「できる」を奪う力もあるからです。

日本は世界でも類を見ない超高齢社会になった

2025年、日本では65歳以上の高齢者が総人口の約3割を占めています。

さらに2040年には85歳以上人口が急増し、介護ニーズはこれまで以上に高まると予測されています。

つまり、これから求められるのは「介護を受ける家」ではなく、「生活機能を維持できる家」です。

住宅は単なる建物ではありません。

健康寿命を左右する社会資源でもあります。

リハビリは病院だけで行うものではない

外来リハビリは40分。

訪問リハビリでも40~60分程度です。

しかし、人は1日24時間生活しています。

その大半を過ごすのは病院ではなく、自宅です。

つまり、

生活そのものが最大のリハビリ

なのです。

これは作業療法士が昔から大切にしてきた考え方でもあります。

「安全」が能力を奪うこともある

もちろん危険は避けなければなりません。

しかし、安全だけを追求すると別の問題が起こります。

例えば、

立ち上がれる人でも電動ベッドだけを使う。

歩ける人でも家中に手すりを付ける。

少しの段差も完全になくしてしまう。

これらは転倒リスクを減らす一方で、

身体を使う機会まで減らしてしまう可能性があります。

リハビリテーションには「廃用症候群」という考え方があります。

身体は使わなければ機能が低下します。

つまり、

便利すぎる環境が、能力低下を早めることもあるのです。

「できる」を育てる住環境とは何か

では、良い住環境とは何でしょうか。

私は、

「少し頑張れば自分でできる環境」

だと考えています。

例えば、

・安全に立ち上がれる椅子の高さ

・歩く機会を自然につくる間取り

・適度に身体を使う生活動線

・無理なく続けられる家事

生活の中で身体を使う機会が残っている家は、生活機能を維持しやすい傾向があります。

住環境は能力を補うだけでなく、能力を維持する役割も持っています。

住宅改修の目的を間違えてはいけない

住宅改修は「楽をするため」ではありません。

また、「転ばないため」だけでもありません。

本来の目的は、

その人らしい生活を続けること

です。

だから私は住宅改修を考えるとき、

「何を付けるか」

ではなく、

「何を続けられるか」

を最初に考えます。

福祉住環境とは、家ではなく生活を設計すること

住宅を見る。

身体を見る。

生活を見る。

家族を見る。

地域を見る。

これらを別々に考えるのではなく、一つの生活として考える。

それが福祉住環境という視点だと思っています。

住環境は建築だけでも、医療だけでもありません。

人が地域で暮らし続けるための土台です。

だから私は、

住環境を「リハビリの道具」としてではなく、

人生を支える環境そのもの

として考えたいと思っています。

まとめ

手すりを付けること。

段差をなくすこと。

それ自体が目的ではありません。

本当に大切なのは、

その人が5年後、10年後も「できる」を失わずに暮らし続けられることです。

住環境は、能力を補うこともできます。

しかし同時に、能力を育てることもできます。

だから私は、

住環境そのものがリハビリになる。

そう考えています。


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