――病院ではなく家だから起きる事故の正体
「転倒予防」と聞くと、多くの人は筋力低下やバランス能力の低下を思い浮かべます。
もちろん、それらは重要な要因です。
しかし、作業療法士として数多くの住宅を訪問してきた経験から言えば、高齢者が転倒する本当の理由は、それだけでは説明できません。
実際には、身体機能・生活習慣・住環境の3つが重なったときに転倒事故は起こります。
だからこそ、病院では歩ける人が、自宅では転倒してしまうのです。
家庭内事故で最も多いのは「転倒」
消費者庁や東京消防庁などが公表している資料では、高齢者の家庭内事故の多くは転倒・転落によるものです。
また、厚生労働省も、転倒による骨折が要介護状態につながる大きな原因の一つであることを示しています。
特に大腿骨近位部骨折では、
- 入院
- 手術
- リハビリ
- 筋力低下
- 活動量低下
という流れをたどり、そのまま介護が必要になる方も少なくありません。
転倒は「ただ転んだ」では済まない事故なのです。
病院では転ばないのに、自宅では転ぶ理由
病院では、
- 廊下が広い
- 手すりがある
- 明るい
- 床が滑りにくい
- 周囲が見守っている
という環境です。
一方、自宅ではどうでしょう。
- 洗濯物を持ちながら歩く
- 電話が鳴って急ぐ
- 夜中にトイレへ行く
- スリッパを履く
- 家具を避ける
つまり、「歩くこと」だけに集中していません。
これをリハビリでは**二重課題(デュアルタスク)**と呼びます。
人は別のことを考えながら歩くと、転倒リスクが大きく高まることが分かっています。
家そのものが転倒をつくる
訪問評価をしていると、
「身体より家の問題だな」
と感じる場面が少なくありません。
例えば、
- 廊下が暗い
- トイレまで遠い
- カーペットが浮いている
- 電気コードが横切っている
- 敷居が数センチある
- 手すりが使いにくい位置に付いている
こうした環境は、一つひとつは小さな問題でも、毎日の生活では何百回と繰り返されます。
転倒は偶然ではなく、「転びやすい環境」が積み重なった結果なのです。
実は危険なのは「いつもの動作」
転倒事故の多くは、
- 洗濯物を干す
- 掃除機をかける
- ゴミを持つ
- 買い物袋を運ぶ
- 布団を上げ下ろしする
など、ごく当たり前の日常動作で起きています。
「歩けるかどうか」ではなく、
生活そのものを評価することが重要なのです。
これは病院での歩行練習だけでは見えてきません。
住まいの中で何をし、どのように暮らしているかまで見て初めて、本当の転倒リスクが分かります。
手すりだけでは解決しない
住宅改修というと、「とりあえず手すりを付ける」と考えられがちです。
しかし、
- 手すりの位置
- 動作との相性
- 利き手
- 身長
- 生活動線
を考えずに設置された手すりは、ほとんど使われません。
実際、このブログでも「付けたのに使われない手すり」について解説しましたが、住宅設備だけでは事故は防げないのです。
福祉住環境に必要なのは「生活を見る視点」
転倒を防ぐために必要なのは、
身体機能だけを見ることでも、
住宅だけを見ることでもありません。
「人」と「家」と「暮らし」を一つのものとして考える視点です。
それが福祉住環境という考え方であり、作業療法士が得意とする領域でもあります。
転倒は年齢だけで起こるものではありません。
住環境を見直すことで防げる転倒は、まだ数多く残されています。
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福祉住環境研究所では、作業療法士・FP・宅地建物取引士という複数の専門資格と、就労継続支援B型事業所の運営経験を活かし、「住まい・介護・障害・お金」を横断した講演・研修を行っています。
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