「便利なはずなのに使わない」のはなぜ?

暮らしの使いにくさ

福祉用具は「できた・できない」だけでは評価できない

「これを使えば、ペットボトルのふたを簡単に開けられます」

「握力が弱い人でも使えます」

「片手でも操作できます」

福祉用具や生活を助ける便利グッズを探していると、こうした商品をたくさん見かけます。

実際に使ってみれば、確かにできる。

ペットボトルのふたも開く。

靴下も履ける。

ボタンも留められる。

では、その道具は本当に「使いやすい道具」なのでしょうか。

作業療法士として生活を見ていると、私はここに少し疑問があります。

一度「できた」ことと、その道具が生活の中で「使われ続ける」ことは、同じではないからです。


福祉用具は、使われなくなることがある

これは感覚だけの話ではありません。

支援機器・福祉用具については以前から「abandonment(使用中止・放棄)」が研究されています。

2018年に発表されたリハビリテーション施設利用者を対象とした研究では、提供された支援機器の19.38%が使用中止になっていました。製品の種類によっても違いがあり、研究では利用者自身がその機器を重要だと感じているか、リハビリテーションを完了しているかなども、その後の使用に関係していました。Taylor & Francis Online

さらに最近の研究でも、支援機器が使われなくなる背景として、単純な身体機能だけではなく、

使いにくさ、

デザイン、

メンテナンスのしにくさ、

生活の変化への対応力、

本人が製品選択に関われたか、

使い方のトレーニングやフォロー、

など複数の要素が指摘されています。Frontiers

これは面白い問題です。

「身体を助ける機能がある」だけでは、道具として十分ではない可能性がある。


例えば「ペットボトルオープナー」を考えてみる

握力が弱くなり、ペットボトルのふたを開けられなくなった人がいるとします。

そこでオープナーを使います。

装着して回したところ、無事に開きました。

これだけを評価するなら、

「使用可能」

でしょう。

でも実生活では、その前後があります。

オープナーを取り出す。

向きを確認する。

ふたへ取り付ける。

片方の手でボトルを固定する。

オープナーを回す。

ふたを外す。

使い終わったオープナーを片付ける。

必要なら洗う。

そして次にペットボトルを飲むとき、また自分からそれを使う。

ここまで全部が「生活」です。


「開けられた」だけを測ると見落とすもの

例えばAさんは10秒で開けられた。

Bさんは40秒かかった。

Cさんは途中でオープナーが外れて3回やり直した。

Dさんは開けること自体には成功したけれど、手が痛くなった。

Eさんは問題なく開けられたけれど、

「これなら家族に頼んだ方が早い」

と言った。

全員、

結果だけなら「開けられた」

です。

でも道具としての評価は、かなり違います。

ここで出てくるのが、最近私自身も関心を持っているユーザビリティという考え方です。


「できるか」から「どう使えたか」へ

製品を実際に評価するとしたら、私は少なくとも次のようなところを見たいと思います。

成功したか。

これは当然です。

でも、それだけではありません。

どのくらい時間がかかったか。

途中で何回失敗したか。

誰かの助けが必要だったか。

説明しなくても使い方が分かったか。

痛みや疲労はなかったか。

本人は使いやすいと感じたか。

そして最後に、

「明日もこれを使いたいと思うか」

です。

最後は意外と重要だと思います。

研究でも、支援機器の継続利用には機器そのものだけではなく、本人・環境・支援方法など複数の要因が関係することが報告されています。DOI


握力を測れば「使える人」が分かるのか

ここでもう一つ、私が確かめてみたいことがあります。

身体機能の数値と、実際の使いやすさはどこまで一致するのでしょうか。

例えば握力です。

握力10kgの人。

20kgの人。

30kgの人。

普通に考えれば、握力が強い人ほどペットボトルのふたを開けやすそうです。

実際、以前このサイトでもペットボトル開栓と握力について取り上げました。

ただし実生活では、握力だけで動作が決まるわけではありません。

ボトルを固定する力。

指先でつまむ力。

手首を回す動き。

関節の痛み。

感覚。

麻痺。

両手を協調して使えるか。

そして製品そのものの形。

いろいろな条件が重なっています。

だから、

「握力○kgだから、この製品が使える」

と簡単には言えません。

ここは実際に測ってみる価値があります。


同じ製品を、違う身体の人が使ったらどうなるのか

例えば同じオープナーを、

片麻痺のある人。

関節に痛みのある人。

握力が弱い人。

手に大きな問題のない人。

それぞれに使ってもらう。

事前に握力やピンチ力などを測る。

そして実際の使用では、

成功・失敗。

所要時間。

失敗回数。

介助の有無。

痛みや疲労。

本人の使いやすさ。

などを記録する。

そうすると、

握力は弱いのに簡単に使える人

がいるかもしれません。

反対に、

握力は十分あるのにうまく使えない人

もいるかもしれません。

片手で使うと全く違う結果になる可能性もあります。

そこまで見て初めて、

「誰にとって使いやすい製品なのか」

が少し見えてきます。


「障害者向け」と書いてあれば使いやすいわけではない

これは福祉用具だけの話ではありません。

高齢者向け。

片手用。

握力が弱い人向け。

ユニバーサルデザイン。

こうした言葉は、その製品の特徴を知る手掛かりにはなります。

でも、実際の利用者にとって使いやすいことを保証する言葉ではありません。

身体の状態は一人ひとり違います。

さらに同じ人でも、

台所では使える。

外出先では使いにくい。

朝は使える。

疲れている夜には使えない。

そんなこともあります。

支援機器の使用について調べた研究でも、機器側だけではなく、個人・環境・支援など複数の要素が利用継続や中止に関係すると整理されています。DOI

これは作業療法で人の生活を見る考え方ともよく似ています。


本当に知りたいのは「その人の生活で使えるか」

福祉用具を見るとき、

「この製品にはこんな機能があります」

だけではなく、

その機能を、その人が、その生活環境の中で使えるのか。

そこまで見たい。

そしてもう一歩進めれば、

「使えなかった」

で終わらせる必要もありません。

どこで失敗したのか。

固定できなかったのか。

力が足りなかったのか。

つまみにくかったのか。

使い方が分からなかったのか。

操作が面倒だったのか。

そこが分かれば、

形を変える。

大きさを変える。

摩擦を増やす。

固定方法を変える。

操作そのものを変える。

といった改善につながります。

ユーザビリティテストは、製品に点数をつけるためだけのものではなく、「なぜ使いにくいのか」を見つける方法にもなります。


福祉住環境研究所でも、実際に確かめてみたい

これまでこのサイトでは、握力、段差、福祉用具、住まいなどについて考えてきました。

これからは少し進めて、

「便利と言われているものは、本当に使いやすいのか」

も実際に確かめてみたいと思っています。

まず考えているのは、握力が弱い人向けの生活用品です。

身体機能を測り、

実際に使ってもらい、

動作を観察し、

本人の感想も聞く。

ただ「使えました」「使えませんでした」では終わらせない。

なぜ使えたのか。

なぜ使えなかったのか。

どう変えれば使えるのか。

そこまで考えてみたいと思います。

便利な道具を紹介するサイトはたくさんあります。

このサイトでは、そのもう一歩先――

「本当に生活の中で使えるのか」

を見ていきます。

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