アメリカ・イギリス・スウェーデンの「風呂」を調べてみた
海外の住宅を見ると、日本とはずいぶん違うところがあります。
玄関もその一つですが、今回は浴室を調べてみました。
海外ではシャワーが中心だから、日本のように深い浴槽をまたぐ必要がない――。
最初はその程度の違いだと思っていました。
ところが、アメリカ、イギリス、スウェーデンの公的なアクセシビリティ基準を調べてみると、もっと面白い違いがありました。
車椅子でシャワーへ入れるだけではありません。
蛇口を操作するための力まで決めている国がある。
今は浴槽を使い、必要になったら撤去して別の空間として使えるようにしている住宅もある。
海外では、どんな浴室が考えられているのでしょうか。
アメリカの「Roll-In Shower」
アメリカのADA(障害のあるアメリカ人法)に基づくアクセシビリティ基準には、**Roll-In Shower(ロールインシャワー)**が登場します。
名前の通り、シャワーチェアなどの車輪付き移動機器を使ったまま入れるシャワーです。
標準型ではシャワー部分に最低30×60インチ(約760×1525mm)の広さが必要です。
入口には大きな縁を設けることができず、許容される段差は最大1/2インチ(約13mm)。しかも米国アクセス委員会は、排水溝などを利用してシャワー床との境界をフラットにした方が、よりアクセスしやすいと説明しています。
ここまでは「車椅子で入れるシャワー」と聞けば、ある程度想像できます。
面白かったのは、この先です。
蛇口を「ひねれるか」まで基準になっている
シャワーや浴槽の水栓・操作部について、アメリカの基準では、
片手で操作できること
が求められています。
さらに、
強く握る、指でつまむ、手首をひねる動作を必要としないこと。
操作に必要な力も5ポンド以下とされています。
これは作業療法士として非常に興味深いところです。
車椅子で浴室まで行けた。
シャワーのところまで入れた。
でも、蛇口を操作できなかった。
それでは「使える浴室」にはなりません。
私はこれまで、ペットボトルの蓋や袋を開ける動作など、握力が弱くなったときの生活について何度か調べてきました。
浴室を調べていたら、ここでもまた、
「握る・つまむ・ひねる」
が出てきました。
住環境のバリアというと段差や通路幅に目が向きますが、ほんの小さな操作部分もバリアになります。
シャワーの椅子にも細かな決まりがある
ロールインシャワーには、折りたたみ式の座面を設置することもできます。
その高さは床から17~19インチ(約430~485mm)。
さらに座面はシャワー入口から3インチ(約75mm)以内まで延ばします。
これは車椅子などから座面へ移るときの隙間を小さくするためです。
座面がある場合、水栓やハンドシャワーの位置も決まります。
標準型ロールインシャワーでは、座った状態で使えるよう、操作部は座面側に近い背面壁に配置し、座面側の壁から27インチ(約685mm)以内。高さもシャワー床から48インチ(約1220mm)以下です。
「手すりと椅子を付けておけばいい」ではないんですね。
座った人の手が、そこまで届くか。
そこまで寸法にされています。
アメリカにも、もちろん浴槽はある
では、アメリカのバリアフリー浴室では浴槽を使わないのでしょうか。
そんなことはありません。
ADAの基準には、アクセシブルな浴槽についてもかなり細かな規定があります。
例えば浴槽には、内部に設置する取り外し式座面のほか、浴槽の端に常設する座面を設ける方法があります。
座面の高さは約430~485mm。
常設座面は浴槽の頭側に設置され、浴槽の外縁まで、またはそれを越える位置まで延ばすことが求められます。
浴槽の縁を立ったまままたぐ方法だけを想定しているわけではありません。
いったん座ってから浴槽へ入る。
浴槽への入り方そのものが違います。
イギリスの浴室を調べたら、もっと変わった仕組みがあった
次はイギリスです。
イングランドの住宅アクセシビリティ基準「Approved Document M」では、住宅をアクセシビリティの面からカテゴリー分けしています。
Category 1は一般的な住宅。
Category 2はaccessible and adaptable dwellings。
そしてCategory 3が**wheelchair user dwellings(車椅子使用者向け住宅)**です。
ここで登場するのが、
level access shower
です。
床との大きな高低差を作らずに利用できるシャワーです。
ところが資料を読み進めていくと、ちょっと意外なものが出てきます。
浴槽です。
浴槽を置く。でも、その場所は将来シャワーになる
英国政府のApproved Document Mに関するFAQには、興味深い記述があります。
車椅子で使用できる状態まで完成させる住宅では、完成時点でアクセシブルなシャワーを設置する必要があります。
一方、将来車椅子対応へ変更できる住宅では、将来level access showerとして使う場所の上に、浴槽を置く設計が想定されています。
現在は浴槽として使う。
必要になったら浴槽を撤去する。
その下は、将来シャワーとして利用できるように準備してある。
これは面白い。
「高齢になったら浴室を改修しましょう」ではなく、最初から後で変えることを住宅側に織り込んでいるわけです。
浴槽を外したら、シャワーを広げる
さらにApproved Document Mの図面を見ると、もっと具体的です。
車椅子対応浴室の例として、
浴槽+1000×1200mmのシャワー
という配置があります。
ただし、このシャワーには、
浴槽を撤去した場合、より大きなシャワーへ拡張できる
という前提があります。
別の例では、最初から1200×1200mmのシャワーと浴槽を併設しています。
完成した瞬間だけを考えた間取りではありません。
設備を一つ取り除いたら、この部屋はどう変わるか。
そこまで図面に入っています。
スウェーデンでは「浴槽を外して車椅子の場所を作る」
スウェーデンも調べてみました。
住宅・建築を所管するBoverketの現在の規則では、住宅の個人衛生室について、移動能力が低下した人でも利用できるようにすることが求められています。
そして、その説明の中にまた浴槽が出てきます。
ただし、今度は浴槽へ入る方法ではありません。
浴槽を撤去します。
例えば便器の横に車椅子を置くスペースがない住宅でも、作り付けではない浴槽を撤去することで、必要な空間を確保できるという考え方です。
介助者が必要になった場合にも、その空間を利用できます。
ここでもポイントは、
身体が変わったとき、大規模な工事をしなくても住宅を変えられること。
設備の位置や浴槽の設置方法を、最初からそのように考えておくわけです。
「全部バリアフリーにしておく」だけではなかった
海外の浴室を調べる前は、もっと単純な記事になると思っていました。
アメリカはロールインシャワー。
イギリスは段差のないシャワー。
北欧もバリアフリーが進んでいる。
ところが、公的な基準を読んでいくと、それぞれ少し違いました。
アメリカで印象的だったのは、実際に身体をどう動かすのかまで細かく寸法化されていることでした。
シャワーへ入る。
座面へ移る。
手を伸ばす。
水栓を操作する。
その水栓を操作するために必要な力まで決められている。
一方、イギリスとスウェーデンで面白かったのは、今の身体だけを見て住宅を完成させていないことでした。
今は浴槽を使う。
将来必要になったら外す。
シャワーを広げる。
車椅子を置く場所にする。
浴室そのものが、あとから変わることを想定しています。
日本でも「将来に備えた家」という言葉はよく使われます。
でも、最初から高齢者向けの設備を全部付けることだけが、将来への備えではないのかもしれません。
必要になったとき、簡単に変えられること。
海外の浴室を調べてみて、私はそこが一番面白いと思いました。
参考資料
米国については、United States Access BoardのADA Accessibility StandardsおよびBathing Roomsの解説を参照しました。
イングランドについては、英国政府のApproved Document M Volume 1および関連FAQを参照しました。なお、ここで紹介した住宅カテゴリーはイングランドのBuilding Regulationsに基づくもので、英国全域を一括した基準として扱ってはいません。
スウェーデンについてはBoverketの現行アクセシビリティ規則・解説を参照しました。該当ページは2026年7月にも更新されています。
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