靴のかかとを踏んでしまうのは、だらしないから? 「手を使わず履ける靴」が増えている理由

暮らしの使いにくさ

玄関を見ると、かかとの潰れた靴がある。

「ちゃんと履きなさい」

子どもの頃に言われた人も多いと思います。

私も、靴のかかとを踏んで履いている人を見ると、どちらかというと「ちゃんと履けばいいのに」と思う側でした。

でも、よく考えると少し変です。

そもそも、靴を履くという動作は意外と面倒です。

足を入れる。

かかとが引っかかる。

前屈して手を伸ばす。

指や靴べらを入れる。

かかとを収める。

必要なら靴ひもを結ぶ。

これを外出するたびにやっています。

だったら「かかとを踏む人」の問題だけではなく、靴の方を変えるという方法もあるんじゃないか。

調べてみると、靴はすでにそちらへ動き始めていました。

靴を履くために、なぜ手を使うんだろう

普通のスニーカーを立ったまま履いてみてください。

足先までは入ります。

問題はその後です。

かかとが靴の縁に当たる。

そのまま無理に足を押し込めば、かかと部分を踏んでしまう。

そこで手を使うことになります。

座れば楽になりますが、今度は座る場所が必要です。

もちろん、健康な人なら大した動作ではありません。

ただ、朝の忙しい時間に毎日やるとなれば「面倒」になる。

荷物を持っていれば、さらに面倒。

身体が硬ければもっと面倒。

年齢を重ねたり、腰や股関節、膝などに問題があれば、「面倒」だったものが「大変」に変わることもあります。

ここで面白いのは、

人間が上手に靴を履く方法を考えるのではなく、靴そのものを変えてしまった製品が出てきたことです。

かかとを「潰れないようにする」という発想

代表的なのが、スケッチャーズのHands Free Slip-insです。

メーカーは「靴べらのようなかかと」と表現していて、立った状態でも座った状態でも、手を使わずに履ける構造になっています。

普通の靴なら、

足を入れる → かかとが引っかかる → 手で直す

だったところを、

足を入れる → そのまま履ける

に変えようとしているわけです。

発想そのものは驚くほど単純です。

でも私は、こういう製品が面白いと思います。

人間に、

「ちゃんと履きなさい」

と要求するのではなく、

ちゃんと履きやすい形にモノを変えているからです。

ただ「かかとを硬くした」だけでもない

では、脱げやすくならないのでしょうか。

ここが気になりました。

手を使わず簡単に足が入るなら、歩いているときにも足が抜けやすくなりそうです。

スケッチャーズでは、この部分に「Heel Pillow」という構造を採用したモデルがあります。メーカーによれば、かかと周辺で足を保持するための仕組みです。

つまり、

入れるときは簡単。でも入った後は保持したい。

という、少し矛盾した要求を靴の構造で解決しようとしている。

このあたりは、写真を見ると構造がかなり分かりやすい。

スケッチャーズ Slip-ins のかかとの構造を見てみる

これを見てから普通のスニーカーのかかとを見ると、結構違って見えます。

実はスケッチャーズだけの話でもない

さらに調べると、この方向へ進んでいるのは一社だけではありませんでした。

ナイキも「EasyOn」というシリーズを展開しています。

ナイキ自身が、年齢や体型などにかかわらず簡単に履きやすい製品を増やす考え方を示していて、以前のFlyEaseという名称からEasyOnへ変更しています。

つまりこれは、

「高齢者用の便利な靴」

という小さな話ではなさそうです。

靴を履くという動作そのものを簡単にする。

そちらへ一般の靴が進み始めている。

「便利な靴」は、誰のためのものなのか

ここで、高齢者や身体に障害のある人の話だけにしてしまうと、私は少し違う気がします。

両手に荷物を持っている人。

子どもを抱いている人。

朝、急いでいる人。

玄関に腰掛ける場所がない人。

靴ひもを結ぶのが単純に面倒な人。

そして、身体を屈めることが難しい人。

程度は違っても、「靴を履くのが楽ならうれしい」という方向は同じです。

ここが面白い。

以前なら「身体が不自由な人のための特別な工夫」だったものが、普通の商品として売られるようになる。

使いやすいものが、特別な人だけのものではなくなっていくわけです。

では、普通のスニーカーはなくなるのか

たぶん、そんなことはないでしょう。

靴には履きやすさ以外にも、フィット感、重量、デザイン、価格、耐久性、歩きやすさなどがあります。

実際、ハンズフリー構造についても、かかとの硬さが気になるというユーザーの声はあります。逆に、屈まずに履けることを高く評価する声もあります。つまり「手を使わない=すべての人に最高」という単純な話でもありません。

一度、普通の靴と比べてみたい

スケッチャーズのサイトを見ると、Slip-insだけでもかなりの種類があります。メンズだけでも200種類以上が掲載され、ウォーキング系から普段履きまで価格帯もデザインもかなり違います。

ここまで種類があるとは思っていませんでした。

「手を使わず履ける」という機能が、一部の特殊な靴ではなく、一つの商品カテゴリーになっていることが分かります。

楽天市場でスケッチャーズ Slip-insを見てみる

もし試すなら、特殊なモデルではなく、普段履きできる普通のスニーカータイプがいい。

そして、

普通の靴と本当に動作が違うのか。

何秒くらい違うのか。

立ったまま本当に手を使わないのか。

かかとの保持感はどうなのか。

何日か使ったあと、結局どちらを玄関で選ぶのか。

そこまで試してみたいと思っています。

「ちゃんとやる」より「ちゃんとやらなくてもいい」

靴のかかとを踏む。

それだけなら、とても小さな話です。

でも、

「かかとを踏まないように、ちゃんと履きなさい」

という解決と、

「だったら、手を使わなくても履ける靴にしよう」

という解決では、考え方がまったく違います。

生活の中には、こういうものがまだまだあるのかもしれません。

人間が頑張ることで解決していること。

毎日やっているから、面倒だとも思わなくなったこと。

「そういうものだから」と受け入れていること。

そこをモノの側から変えてしまう。

かかとの潰れた一足の靴からでも、製品の進化を見ていくと結構面白いものです。


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